【第五話】ハマオ号との衝撃的な出会い

 

10月のとある週末。せっかくプリメーラ号もあるんだし、どこかに出かけようと、いわどんを突っついていた。天気が良ければ、公園にピクニックにでも行こうかと思っていたが、あいにく天気は曇り。しかも前の日には雨が降っていたので、芝生はきっと濡れているだろう。結局どこにも行く気配がないので、ついついポツリと言ってしまった。

「ハマーのディーラーでも見に行く?」

この言葉が、その後とんでもない事になるとは、当然誰も思っていなかった・・・

ハマージャパンは品川のちょい先にあった。いわどんの友人も一緒に見ると言うことで現地で待ち合せをした。ある意味、初めて日本でハマーを見た私。しかも何台もある。さすがにデカイ。ビルの横の地下への入り口に2台のハマー。1台はH1で、1台はH2が止まっていた。通常のディーラーと違って誰もが入ってみれるような雰囲気ではなく、受付で簡単なアンケートに記載し、中に入れてもらうと言う感じであった。リッキーとジンを連れていた私は、受付で断られた。「抱っこしててもダメですか?」と聞くと、「こちらで展示してある車は全て売り物ですので」と断られる。仕方がないので、私は受付のイスに座って待つことにし、いわどんと友人だけが中に入っていった。
食べ物でもないのに、なんで入れんのじゃ!とちょっと怒りが込み上げたが、考えてみたらそりゃそうだろう。先方からすれば、冷やかしで来る人もすべて相手にしていたら仕事にならないだろうし。と言うのも必ず人がついて説明してくれる接客をしているのでだ。いわどんと友人は地下のガレージにいってしまった。リッキーとジンもずっと室内で抱っこされているのもつまらないだろうと思い、私も外に出た。
外に止まっているハマーを見ると、さすがにデカイ。特に黄色いハマーは膨張して見えるのか、とにかくでかく感じた。横に止まっていたH2は、サイズもH1よりも小さいので、とても小さく感じる(と言ってもでかいんだけど)。でもH2はハマーじゃないなとぶつぶつとリッキーやジンに話しかける怪しい私。そうこうしていたら、いわどんが地上に出てきた。なにやら興奮気味である。「色といい、形といい、すっごくいい掘り出し物があるんだよ」と騒いでいる。「ふ〜ん」とあまり真剣に受け取らない私。「見える?奥にあるあれなんだけど」「見えないよ」とそんな会話をしていると、社長さんが試乗させてくれると言う。店の前には緑のターボのハマーが止まっていた。それに乗せて近くを走ってくれるとの事。当然犬は無理なので、私は我慢し、いわどんと友人とで試乗に出かけていった。

数分後、またまた興奮気味に戻ってきた。「すっごくいいよ、ターボは。いいなぁ、このハマー」とはしゃぐいわどん。そうですか、と聞き流す。社長さんが「テラス席にどうぞ」とおっしゃってくれたので、2匹を連れてテラス席へ全員で移動し、お話を聞かせて頂く事になった。

いわどんは、目の前に突然降ってきた掘り出し物に、悩んでいた。値段を聞くと、確かに手のでない値段ではない。しかも色といい、4ドアハードトップと言う形といい、我が家が望んでいたモノなのである。94年のそのハマーは、まだ内装も雑でシンプルなモノである。いわどんいわく「そりゃもちろん98年のが欲しいけど、買える値段じゃないし」。確かに買えない。でも94年のそのハマーならと、手が出る値段にとっても悩んでいるのであった。友人も「ずっと前からハマー、ハマーって言ってたもんね、もう何年越し?」と言われ、ディーラーの方も「そんなに好きなら」と、みんな中途半端な背中の押し方をしてくる。
私としては、ローンと駐車場代が払えるのだろうか、払ったとして我が家は生活していけるのだろうか、それどころか、我が家の前の道は通れるのだろうか、といろいろな事が頭をよぎり、いわどんを質問攻めにした。でも、いわどんはと言うと・・・「金はなんとかなる。生活もできる」と言う。そして「買えば、一生懸命働くでしょ。目標が持てるしね」と言うのである。もう心は買うモードである。と言うのも、当然ディーラーとしても手付け金を払うなり、契約をするなりしなければ、他の人に売れてしまうかもしれないと言うのである。そりゃそうだ。行きなりやってきた金があるのかどうかもわからない人と口約束は普通しないだろう。ローンが通るかもわからないし、すぐに決めれる事でもないので、取りあえず、今日の所は引き上げる事にした。

それにしても、今日ディーラーに来なければ、出会わなかったかもしれないハマー。ハマーなんてヤダ、ヤメテと言っていた自分が、ハマーへ導いてしまってた・・・なんてこったい。

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